富山の冬季の降水量増加に関する研究発表終了

9/26、27の大学コンソーシアム富山と富山大学Academic GALAで、富山の冬季の降水量増加に関する研究発表をしました。発表した内容の後半部分は論文執筆中ですので、前半部分に関してだけ簡単に解説しておきます(これは下記の様に、アメリカ気象学会の専門誌に投稿し受理されたものです)。

Yasunaga, K., and M. Tomochika, 2017: An increasing trend in the early-winter precipitation during recent decades along the coastal areas of the Sea of JapanJournal of Hydrometeorologyin printing

ご存じの通り、冬型の気圧配置が強まると、日本海では筋状の積雲が発達し、沿岸域に多くの降水をもたらします。日本海では、冬季の海面温度が近年著しく上昇していることが分かっています。冬季の筋状雲が発達する要因の1つは、日本海の暖かい海面温度ですので、海面温度の上昇に伴い冬季の降水量が日本海沿岸域において増加している事が想像されます。そうした背景から、冬季の降水量の長期変動について、気象庁の観測データを用いて調べました。

北陸に位置する6地点(新潟、高田、富山、伏木、輪島、金沢)における月積算降水量を、1940年代から示したものが下図左になります。海面温度の上昇から想像される通り、降水量は1980年の中頃から顕著な増加傾向を示し、約30年間で1.5倍以上の増加となっています。こうした降水量の増加は、北陸で最も顕著であるものの、東北から中国地方まで広く見られる現象です(下図右)。しかし、これは本当に日本海の海面温度の上昇が原因なのでしょうか?

 

北陸における降水量が、海面温度とどの程度の関係性を持っているかを表したものが下図左になります。一部の海域では暖色系が拡がり、北陸における降水量と海面温度に正の関係性があることが分かります。しかし、この関係性は、統計学的に「たまたま(偶然)」であることを否定できない程度の弱いものです。即ち、この結果は、海面温度だけでは降水量の増加を説明するのに不十分であることを意味しています。ここで、日本海の筋状の積雲が発達するのは、冬型の気圧配置であることを思い出して、冬型の気圧配置に特有な季節風と、北陸における降水量の関係性を調べました。すると、海面温度よりもずっと強い正の関係性が得られました。また冬季の季節風は、近年顕著な強化傾向にあることも分かりました(下図右)。即ち、降水量の増加は、海面温度の上昇というよりは、季節風が強くなっていることが原因だった可能性が高いということになります。この季節風強化の原因に関しては、また続報をお待ち下さい。頑張って論文として形にしたいと思います。

 

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2017年8月25日の富山の豪雨について

2017年8月25日の朝9時ごろ、富山県の西部を中心に豪雨があったようです。下の図は、その時の気象庁の高解像度降水ナウキャストのキャプチャー画像になります。確かに、強い降水がレーダによって捉えられており、局所的に80㎜/時間を超えています。この豪雨について、先日問い合わせがあったので、その時の回答を簡単にまとめておきます。

1.これは「線状降水帯」か?

線状降水帯とは、「線状に対流セルが長さ数10kmから数100kmに並んだ降水域」のことですので、そういった点からは、今回の豪雨をもたらしたのは「線状降水帯」で良いと思います。一方で最近の報道などでは、「線状降水帯」=「バックビルディング型の線状降水帯」と、暗に「バックビルディング型」を含んでいる場合が多いと感じています。この「バックビルディング型の線状降水帯」とは、「積乱雲の1つ1つは、風によって風下に流されていく一方で、新しい対流セルは上流の風上側で形成されるような線状降水帯」のことを指します。今回の豪雨をもたらしたのが「バックビルディング型の線状降水帯」かどうかは、細かい時間変化を見てもハッキリとは確認できませんでしたので、「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」という感じです。ただし気象庁の天気図からは、寒冷前線が衰退しながら北陸地域を徐々に南下したようですので、「線状降水帯」かどうかを議論しなくても、普通に「寒冷前線に伴う降水帯」と言えばよいような気がします。

天気図

2.この原因は、高い海面温度が原因か?

下の図は、富山大学の理学部屋上で観測した気温と降水量の時系列です(学生さんが描いてくれました)。ここからは、寒冷前線が通過した割に温度低下が小さい様子が分かります。即ち、この寒冷前線は強いものではなく、今回の豪雨は「活発な前線活動(収束帯)に伴うもの」とは言えそうにありません。

今年の九州豪雨に関してこんな報道記事がありますので、海面温度が気になる方も多いのではないかと思われます。実際に気象庁のHPで確かめてみると、平年よりも1℃程度高い海面温度が8月中下旬に日本海で見られますので、これが原因の一つであるかもしれません。しかし、海面温度だけを取り出してみると、8月上旬には平年より3℃程度高い海面温度でしたので、「海面温度度が原因」という断定は少々言い過ぎですし、ミスリーディングと思われます。「いつもより暖かい海面温度が、寒冷前線に伴う降水を強化した可能性がある」ぐらいの言い方が妥当ではないでしょうか。このあたりのハッキリしない感じは、JAMSTECの茂木さんが執筆されているコラム「頻発する梅雨末期の豪雨は地球温暖化によるものなのか?」を参考にしてください。

3.このような豪雨は今後、増えていくのか?

ここ数十年で極端降水の頻度は増えていることが、気象庁のデータを丁寧に調べた論文によって指摘されていますし、それらの増加が気温や海面温度の上昇と関連がありそうなことも分ってきています。そうした事実を考えると、最近の気温上昇や海面温度の上昇がこれからも続くなら、増えていく可能性が高いと思います。

以上が、外部からあった問い合わせへの回答のまとめです。この豪雨に関しては、富山に住む我々としても、もう少し踏み込んだ見解を述べることができるよう、数値モデルなどを用いて調べていくつもりです。誰か興味を持ってくれればですが。。。

降水変化

熱帯インド洋の雨が富山に雪を降らせる!?

「熱帯インド洋の雨が富山に雪を降らせる!?」という専門外向けのセミナーをします。タイトルから明らかなように、富山の気候についてです(査読付き論文としてもまとめている、うちの研究室の最近の研究成果の1つです)。

タイトルが同じなので同じ内容か、と思われるかも知れませんが、その通りです(笑)。ただ、前者は一般向けとして、後者は教育関係者をターゲットに話を組み立てています。また、前者は講演形式ですが、後者はポスター形式です。という感じのちょっとした違いがありますので、ご興味がございましたら、お好みの方で聞いて頂けたらと思います。

ついでになのですが、理学部の学生さんのイベント「サイエンスフェスティバル」の9月24日(日)の講演会で、台風の専門家を気象庁から招待したようです。講演者は、台風予報の分野で日本をリードする著名な研究者で、この様な専門家の話が聞ける機会はなかなか無いのではないかと思います。豪雨がニュースを賑わしている今日この頃ですが(それについては近々記事を書きます)、台風の注目度も上がってくる季節ですので、ご興味がございましたら、是非是非どうぞ。お勧めです。

スマトラ島の降水の日周期に関する論文

今回も、最近(と言っても半年前ですが)公開された投稿論文についてです。この論文のベースは、学生さんが卒業論文で行ったものですが、進学してからも精力的に研究を続けてくれて最終的に論文受理に至りました。インドネシア スマトラ島の降水の日周期に関する論文です。タイトルからは、日本とは一見関係がなさそうなのですが、意外と深い関係があります。ここでは長くなるので割愛しますが、この地域を対象とした気象・海洋の国際プロジェクト(YMC)が、現在進行形ですので、詳しくはそちらをご覧下さい。

論文の内容に関してですが、スマトラ島の降水活動は、日本の夏の夕立のようにきれいな日周期をします。降水活動の発達に関しては地面の加熱、ということで(正確な発達のタイミング以外は)理解できるのですが、発達した降水システムは、すぐに衰弱するわけでは無く、しばらくの間移動しながらも維持されます。この維持メカニズムや、移動メカニズムはよく分かっておらず、多くの研究者が頭を悩ませていきました。その解決に向けて、まずは発達した降水システムが、どのように環境場の影響を受けながら維持・移動するのかを調べたというのが、この論文となります。下は、論文の核心部分の図になります(著作権等を考えてオリジナルから解像度を落としています)。

  • 対流圏下層の風向きによって、降水システムの移動方向が、きれいに分類できること
  • 下層が西風であっても、その風下である東向きでは無く、風上にあたる西向きに移動する降水システムがあること
  • 移動した降水システムが、海上に出るタイミングで再発達すること

等々が長期間の衛星観測データから明らかになりました(短い期間では、幾つかの先行研究がありましたが、長期的に調べたというのが、この論文の1つの売りです)。これもOpen Access の論文ですので、深く知りたい方は、ジャーナルのWEBサイトに行って、PDFを直接ダウンロードしてください。また、降水の再発達に関しては、共同研究者が観測データを用いて”重力波”の影響である事を示しています(もうすぐ発行されます)。そちらも合わせて、お読み頂ければ。

Yanase et al., 2017: Relationship between the Direction of Diurnal Rainfall Migration and the Ambient Wind over the Southern Sumatra IslandEarth and Space Science4, DOI: 10.1002/2016EA000181.

Yokoi et al., 2017: Diurnal cycle of precipitation observed in the western coastal area of Sumatra Island: offshore preconditioning by gravity wavesMonthly Weather Review, 145, 3745-3761.

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「熱帯低気圧(台風)の進路」に関する論文

少し前(2016年の中頃)になりますが、学生さんに卒業研究で取組んでもらった研究に幾つか手を入れて、査読付き論文として発表しました。タイトルは、”Relationships between tropical cyclone motion and surrounding flow with reference to longest radius and maximum sustained wind”と長いですが、要は、熱帯低気圧が背景場の風に対してどちらに進みやすいかを、台風の大きさ別、強さ別に調べたものです。結果は、下記の図のようになっています。少し解説をすると、左図から、台風は大きくなるにつれて、周囲の風に対して相対的に北東向きに移動しやすく、南東向き、南西向きには移動しにくくなることが分かります。同様に右図から、台風は強くなるにつれて、周囲の風に対して相対的に北東向きに移動しやすくなることが分かります。この図は、日本気象学会のレター誌SOLAに掲載された論文から一部抜粋し改編したものです。より深く知りたい場合には、この学会誌はOpen Accessですので、Yasunaga et al, (2016)を読んでみてください。英語はちょっとという方は、日本語でかなり意訳した解説を、理学部のホーム-ページに執筆しておりますので、そちらをご覧下さい。

理学部トピックス:熱帯低気圧(台風)の進路

降雪測定用防風柵の設置完了

降雪量の精度良い測定のために、防風柵の設置に取組んできました。共同研究者と2016年の夏から始めて、昨日(2016年11月15日)、それがやっと完了しました。初めての試みでしたので、材料が足りなかったり、想定したものでうまくいかなかったり、と試行錯誤の連続で、意外と時間が掛かってしまいました。とはいうものの雪のシーズン前に完成し、一安心です。

一般にはなかなか理解されていませんが、雪は風によって舞ながら雨量計を避けて落下することが多いので、「真の降水量」を計測するのは意外と大変です(雨も同様ですが、落下速度の遅い雪の方が深刻です)。そのためWMO(World Meteorological Organization)では、出来るだけ正しい降水量を測定できるように、直径12mと4mの円に内接する8角形の防風柵の設置を推奨しています(詳しくは、報告書が出ています)。しかし、今回制作したものは、スペース的と予算的な問題から、WMO推奨の2重フェンスではなく、WMOヴァージョンの内側フェンスを模したものにしました。

この柵の中には、気象庁と同じ型の雨量計と、ディストロメーターとよばれるレーザー式降水粒径速度分布測定装置(LPM)が設置してあります。他に設置してあるVaisalaの複合気象センサーや積雪深計と一緒に、長期に渡ってデータを蓄積していく予定です。これらの測器により、富山における降水現象に関わる様々なデータが得られるはずで、大変楽しみです。

関係各位のご協力に感謝致します。このお礼は、良い研究成果の発信でお返ししたいと思います。

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水橋のレーダ見学

授業の一環で水橋のレーダ見学をしてきました。当然稼働中なのでレドームの中は見られませんし、快晴で雨雲もなく、観測をしている実感がイマイチ湧かないのが少々残念でしたが、国交省の職員の方に、観測原理や設置目的、観測頻度などを説明して頂き大変勉強になりました。関係者の方々、暑い中ありがとうございました。

今回の見学で、Xバンドだけでなく、従来からあったCバンドの方も順次MP化しているのを初めて知りました。宝達山のCバンドはしばらく先のようですが、長野の聖高原のCバンドは既にMP化しており、立山連峰を超えて富山県の上空もカバーしているので、水橋や能美のXバンドレーダと併せて、地域の色々な研究にも使えそうです。

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